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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
こんがら・せいたか
一
その三太郎がおどろいてとび降りてきたところをみると、やはり、鷲はこの閣の屋根に翼を止めているのであろう――と咲耶子が欄に手をやって、屋根をふりあおぐと、
「もし、女のお方」
意外や、上から人のこえが呼ぶ。
はッ……と咲耶子は胆をちぢめたふうである。さっきの火合図で、明け方までに胸に一つの計画があるので、不意な人ごえに、思わず水をかけられたようになった。
「もし……」と、上ではふたたび呼んでいる。
「こんなところに降りて、まことにどうにもならないでこまりました。しつれいながら、そこへ降りることをおゆるしくださらぬか」
見ると、屋根から下をのぞいているのは、色のしろい美少年。
金の元結が前髪にチラチラしている、浅黄繻子の襟に、葡萄色の小袖、夜目にもきらやかな裃すがた――そして朱房のついた丸紐を、胸のところで蝶にむすんでいるのは、背なかへななめに持っている状筥であるとみえる。
咲耶子はふしぎなものが、天から降りてきたように感じたが、とにかく、自分に異議をいう権利はないので、かれのたのみをゆるすと、この美少年、三太郎猿ほどのあざやかさではないが、垂木にすがって欄の上へ、白足袋の爪先をたて、ヒラリと、源氏閣の座敷のなかへはいってきた。