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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

二

「おのれ、燕作ごとき素町人におくれをとって一党の人々に顔向けがなろうか」

早駆けとはいい条、ことここに立ちいたってみれば、武芸以上の必死だった。いや、そんな意地よりも名誉心よりも、まんいち自分が敗れでもした時には、いやでも応でも、咲耶子の身を徳川家の手にわたさなければならない。

いわば一党の人の然諾と咲耶子の運命とは二つながら、かかって自分の双肩にあるのだ。敗れてなるものか、おくれてなるものか。

彼はややあせった。

汗は全身をぬらしてくる。呼吸はつまる。

それにひきかえて燕作のほうを見ると、さすがはこいつ足馴れたもので、少しもあせるようすがなく、まるで平地を歩むように、スラスラと十二、三町の登りを踏みすすんでゆく。

すると、ほどなく彼の前に、七、八段の幅のひろい石垣があらわれて、巨人がふんばった脚のような大鳥居の根もとがそこに見られたのである。

「おっ、やっと着いたぞ」

さすがな燕作も、そこでは、ホッとしたように息ついて、山下へ小手をかざしてみたが、まだ小文治の姿は見えない。

で、安心したらしく、

「ヘン、どんなものだい」

というふうに胸をひろげて、また手拭を風車にまわした。