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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
二
「アア、おなかがペコペコだ……」
起きるとすぐに食うしんぱい。
ゆうべスッカリ吐きだして、今朝は胃袋が、カラッポになっているとみえて、食慾ばかりになった目つきで、しきりに、そこらをキョトキョトと見まわしながら、
「なにかないかナ、なにかないかナ……」
泥だらけな着物もハタかず、ふらふらと立ちあがった。
その姿や寝ぼけ面が、おかしいとみえて、すぐそばの神馬小屋で、白と黒と二疋の馬が、ヒーンと鼻で吹きだした。すると頭の上のモチの木でも、鴉がカーッと啼き合わせた。
虫のいどころが悪かった。
「ばかア! てめえのことじゃねえやい」
と、蛾次郎、鴉をどなりつけて、スタスタと向こうへ歩きだした。
すると、あった! あった!
ひとつの御堂の神前に、蛾次郎の見のがしならぬものがあった。
蕎麦まんじゅうのお供物である。
きのうのお祭に、氏子があげた物であろう。三方の上に、うずたかく、大げさにいえば、富士の山ほど積んであった。
犬もあるけば棒にあたる!
これなるかな、これなるかなと、蛾次郎はそこで、よだれをたらして見とれてしまった。
「ちぇッ、ありがたし、かたじけなし」
と泣き虫の蛾次郎、じぶんのおでこをピシャリとたたいて、神さまに感謝したのである。