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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

三

三

龍太郎と伊那丸が、呂宋兵衛の側面をつくよりまえに、ただひとり、列のまっ正面から禅杖をふっておどりこんだ勇僧は、いうまでもなく加賀見忍剣だ。

七、八人の野武士どもが、九尺柄の槍尖をそろえて、ズラリと円陣をつくり、かれをまんなかに押しつつんでしまったが、笑止や、忍剣の眼から見れば、こんなうすッぺらな殺陣は、紙のふすまを蹴やぶるよりもたやすいことであろう。――見よ、錬鉄の禅杖が、かれの頭上にふりかぶられて、いまにも疾風をよぼうとしているのを!

かッと、目を見ひらいて、加賀見忍剣、

「命のおしいやつはどけッ!」と大喝した。

と思えば――虚空からさッとおちた禅杖が、右なる槍を二、三本たたき伏せる! それッと、ひだり側から間髪をいれずにくりこんだ槍は、ビューッと禅杖が輪をえがいてかえったとたんに、乱離微塵! 三段四段におれとんで、その持主は血の下になった。

「わッ」

と円陣の一角がくずれると、もうかれらは、こらえもなく浮きあしをみだした。忍剣はといえば、その瞬隙に、檻をでた猛虎のごとく、伊那丸の側へかけだしている。

伊那丸はどこまでも、呂宋兵衛をのがさじと追いつめて、いまや、火をふらして血戦をいどんでいた。