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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

悪入道の末路

一

そこの松の切株の上に立っていたひとりの武芸者は、いななく馬の声をきくと、弓を小わきに持ってヒラリと飛びおりてきた。

悪入道の末路

一

征矢にくるった馬の上から、もんどり打っておとされた穴山梅雪は、朱にそんだ身を草むらのなかより起すがはやいか、無我夢中のさまで、道もない雑木帯へ逃げこんだ。

しずかなること一瞬、たちまち、パパパパパパパッ! と地を打ってきた蹄鉄のひびき、天馬飛空のような勢いをもって乗りつけてきたのは木隠龍太郎である。怨敵梅雪が道なきしげみへ逃げこんだと見るや、ヒラリと黒鹿毛を乗りすてて右手なる戒刀を引ッさげたまま、

「卑怯なやつ、未練なやつ、一国の主ともあろうものが恥を知れや、かえせ梅雪! かえせ梅雪!」

と呼ばわりながら、身を没するような熊笹のなかを追いのぼっていった。

だが、梅雪のほうはそれに耳をかすどころでなく、命が助かりたいの一心で、丘のいただき近くまでよじのぼってくると、不意に目の前へ、猿かむささびか雷鳥か、上なる岩のいただきから一足とびにぱッととびおりてきたものがある。

「あッ」

おびえきっている梅雪の心は、ふたたびギョッとして立ちすくんだけれど、ふと驚異のものを見なおすとともに、これこそ天来のすくいか、地獄に仏かとこおどりした。