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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

三

「なんだって?」

ぼうぜん――なにを見るのであろう竹童の目。

いっぱいな涙になってしまった。

「さかさまだ! さかさまだ!」

かれはみなをおどろかせて叫びだした。

「おいらを助けるために、あのひとが捕まってゆくなんて、そ、そんな、さかさまごとがあるもんか」

「ですけれど、竹童さん」少女のひとりがなぐさめ顔に、

「わたくしたちも泣きながら、七里の山路を歩いたのです。もうおよばないことですから、このうえ、悲しいことをいわないでくださいまし」

つぎの少女が口をそえた。

「そのかわりに、あなたは体をしっかり癒して、伊那丸さまや民部さまに、小太郎山の砦のしまつを、くわしくお告げしてくれとおっしゃいました」

三番目の少女がつげた。

「そして、みなさまの救いの手を、敵のなかで待っていますと」

竹童はもうそういう言伝などを、じッと、聞いていなかった。どこか、骨節がつよく痛むのであろう、キッと口をゆがめながら、松にすがって立ちあがった。

「あ、どこへ?」

「竹童さん、どこへ?」

「竹童さーん!」

呼べどふり向きもしなかった。

「ア、ア、あッ……」

と、不安そうに見おくる少女たちの視界をはなれて、とちゅうから、脱兎のごとく駈けてしまった。