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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
三
三
「まて民部、手荒なことをいたすまい」
もっともうらみ多きはずの伊那丸が、意外にもこういったので、民部も忍剣も、意外な顔をした。
伊那丸はしずかに、階段からおりて、梅雪入道の手をとり、宮の板縁へ迎えあげて、礼儀ただしてこういった。
「いかに梅雪、いまこそ迷夢がさめたであろう、わしのような少年ですら、甲斐源氏を興さんものと、ひたすら心をくだいているのに、いかにとはいえ、二十四将の一人に数えられ、武田家の血統でもある其許が、あかざる慾のためにこのみにくき末路はなにごと。それでも甲州武士かと思えば情けなさに涙がこぼれる。いざ! このうえはいさぎよく自害して、せめて最期を清うし、末代未練の名を残さぬようにいたすがよい」
「ええうるさいッ」梅雪はもの狂わしげに首をふって、――「余に自害せいとぬかすか、バカなことを!」
「なんと、もがこうが、すでに天運のつきたるいま、のがれることはなるまいが」
「なろうとなるまいと、汝らの知ったことか。こりゃ伊那丸、縁からいえば汝の父勝頼の従弟、年からいっても長上にあたるこの梅雪に、刃を向ける気か、それこそ人倫の大罪じゃぞ」
「それゆえにこそこのとおり、礼をただして迎え、自害をすすめ、本分をとげさせんといたすものを、さりとは未練なことば」