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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

四

で、かれ一流の反間苦肉の策をほどこし、奇兵をだして、躑躅ヶ崎の館をうばった。それは、伊那丸が京都へいっているあいだのできごとであった。

大久保石見守長安は、家康の腹心で、能役者の子から金座奉行に立身した男、ひじょうに才智にたけ算盤にたっしている。家康はその石見守を甲府の代官とした。そして甲州には昔からの金坑があるから、できうるかぎりの金塊を浜松におくれと命じた。

でなくてさえ強慾な石見守は、私腹をこやすためと家康のきげんをとるために、金坑掘夫をやとって八方へ鉱脈をさぐらせる一方に、甲斐の百姓町人から、ビシビシと苛税をしぼりあげて、じぶんは躑躅ヶ崎の館で、むかしの信虎時代もおよばぬほどなぜいたくをきわめている。

「畜生ッ、あばれるか! 手向かいをすると耳をきるぞ! 脛をぶッぱらうぞ! 歩けッ、歩けッ、うぬ歩かんか」

腕まくりをした若侍が八、九人。

いま、躑躅ヶ崎の石門のなかへ、ひとりの百姓をしばりつけてきた。

「おとうさんを助けてくださいませ! もし、おとうさん、あやまってください、お武家さま、堪忍してあげてくださいませ」

十五、六の女の子。その百姓の娘らしい。