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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

三

と、あいかわらずな泣き虫の蛾次郎。

鼻の穴を天じょうに向け、喉ぼとけの奥まで夕やけの明りに見せて、声いッぱい、いい気になって、歌いだしたものである。

どうせ山の中だというふうに、卜斎もかまわずにほうっておくもんだから――。

水晶!     水晶!

むらさき水晶は  お染にやンべ

お染かんざしに  挿すよにサ

黒い水晶は    婆さまにやンべ

婆さまみがいて  お寺にあげて

文殊菩薩の    入れ黒子

「なんだ、あいつは」

と、びっくりしてふりかえったのは、別なことでぼうとしていた金鉱山掘夫や熊蔵たち。

沢から平坦な道へとびあがったとたんに、大勢のあらくれ男やさむらいが、ひとところにたむろをしていたので、蛾次郎も急に間がわるそうな顔をして、でたらめな水晶掘りの歌をやめてしまった。

その蛾次郎はともかくも、卜斎の風体人相、ひとくせありげに見えたので、伊部熊蔵は雁六に目くばせをして、

「オイ、待てまて」と呼びとめた。

他郷に入って争いすべからず、利ある争いもかならず不利、――という諺は、むかしの案内記などにはかならず記していましめてあることだ。まして、相手が悪そうだから、卜斎も悪びれないで、