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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

三

おどろいたのは、むしろそれへ足を乗せた卜斎のほうで、まさか、やわらかい石だとは、夢にも思わなかったはずみから、よろよろとツンのめって、あやうく、向こうの梅の老木に頭をぶつけ、ふたたび、目から火のでるつらい思いをするところだった。

「やッ……おのれは蛾次郎だな」

気がつくと卜斎は、いきなり蛾次郎のえりがみをつかんで、ウンと、そとへ引きずりだそうとした。

蛾次郎は、半分もぐりこんだまま縁の下の土台にかじりついて、

「ごめんなさい! 親方、親方!」

と土龍のように、でようとしない。

なにしろ蛾次郎は、この卜斎ほどおっかないものはないと心得ている。裾野にいた時分から、気にいらないことがあると、すぐに鏃をきたえる金槌で、頭をコーンとくるくらいはまだやさしいほう、ふいごで拳骨を食ったり、弓のおれでビシビシとどやされたおそろしさが、頭のしんにしみこんでいる。

しかもまだその当時の、弟子師匠の関係を断っているわけではなく、卜斎が北ノ庄へかえるとちゅう、目をくらまして逃げだしていたところだから、見つけられたがさいご、こんどこそ、どんな目に遭わされるかと、いきた空もないのである。