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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
二
「さ、これでいい」
と半助が合図をすると、わらじをむすんでいた駕籠の者が、ばらばらと寄って二つの駕籠をかつぎあげた。――呂宋兵衛はすぐと、
「おれと菊池さまは、あとから見えがくれについてゆくから燕作、てめえはなにしろ駕籠について、御岳のうら道をグングンとかけとばし、浜松のご城下へいそいでゆけ」
と、手をふった。
…………
紛擾をきわめている一方では、徳川方のそんな奸計を、夢にも知ろうはずがない。
どっちも引かずに争っていたが、審判の公平と、他藩の輿論には勝てない。で、とうとう石見守も我を折った。ぜひがない、随意にするがいいと、兜をぬいだような顔をして、苦情の紛争にけりをつけた。
「見たことか」
と、小文治は小きみよく思った。
で、鐘巻一火の溜り場へ、凱歌を奏してひきあげてきたはいいが、それほどまで争奪の焦点となっていた、かんじんな咲耶子その者のすがたが、いつのまにか失われていた。
門人たちはおどろいて、
「たったいままで、ここに手当をうけて、しずかによりかかっておられたのに」
と、血まなこで四方をさがし歩いたが、かげも形も見えなかった。
一火はもうしわけがないと、龍太郎や忍剣たちのまえに両手をついて謝罪した。