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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

三

しかし、やがて時たつほど、むらがり立って、新手新手と入りかわる城兵におしくずされ、伊那丸がたは、どっと二、三町ばかり退けいろになる。

「それ、この機をはずすな」

とみずから、八角の鉄棒をりゅうりゅうと持って、まッ先に立った又八、

「追いつぶせ、追いつぶせ、どこまでも追って、伊那丸一味をみなごろしにしてしまえ」

と、千鳥を追いたつ大浪のように、逃げるに乗って、とうとう、裾野の平までくりだした。

三

時分はよしと、にわかに踏みとどまった小幡民部。

とつぜん、采配をちぎれるばかりにふって、

「止まれッ!」

と、いった。

算をみだして、逃げてきた足なみは、ぴたりと踵をかえして、稲むらにおりた雀のように、ばたばたと槍もろともに身をふせる。

「かかれッ、轟又八をのがすな」

「おうッ」

たちまちおこる胡蝶の陣。かけくる敵の足もとをはらって、乱離、四面に薙ぎたおす。

なかにも目ざましいのは、山県蔦之助と巽小文治のはたらき。見るまに、鬼面突骨斎、浪切右源太を乱軍のなかにたおし、縦横無尽とあばれまわった。

「さては、またぞろ民部の策にのせられたか」

と、又八は色をうしなって、にわかに道をひき返してくると、こはいかに、すでに逃げみちを断って、ふいに目の前にあらわれた一手の人数。