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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

割れたお仮面

一

エイッ、ガリッ! というこの物音、なんどくり返されたかわからない。そのうちに、

「しめた!」

という声。うまく投げた鈎のさきが岩松の根に引っからんだとみえる。

力をこめて手応えをためし、よしと思うとその男のかげ、度胸よく乗ってきた小舟を蹴ながし、スルスルと一本綱へよじのぼりだした。

胆も太いが手ぎわもいい、たちまち三丈あまりの絶壁の上へみごとに手ぐりついて、竹生島の樹木の中へヒラリと姿をひそませてしまった。

と。それからすぐに――。

弁天堂のわきにある菊村宮内の家の戸を、トントントンと根よくたたき起していたのはその男で、やがて手燭を持ってでてきた宮内と、たがいに顔を見合わせると、

「や」

「おお」

といったまま、中にはいって厳重に戸じまりをかい、奥の一室に席をしめて、声ひそやかに話しはじめた。

「どうなすった。こんどの合戦に、北国勢の軍師であるそこもとが、かかる真夜中に落ちてくるようでは、いよいよ北ノ庄の城もあぶないとみえますな」

「おさっしのとおりまことにみじめな負けいくさ。ここへきて貴殿に顔をあわすのも面目ないが、じつは、賤ヶ岳の一戦に、この方と佐久間盛政との意見が衝突いたし、そのためにいろいろな手ちがいを生んだので、いまさら越前へももどれず……」