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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

二

一門の門弟四、五十人をひき具して、おなじく、御岳山上の一端に、短銃打ッちがえの定紋をつけた幕をはりめぐらし、そのうちにひかえて、すでに火術試合の申し出でをしている一組だったが、大鷲出現のこのさわぎに、いみじくも、そこだけは申し合わせたように、ヒッソリしていた。

「こういうおりがまたとあろうか。鐘巻一火の秘技を衆人に知らしめるのは、この時だ」

と、一火は幕のうちにたって、新渡来又助式の鉄砲をキッとつかんだ。

「先生、火縄!」

と、早くもその心をよんで、門下のひとりが火縄を吹いてわたす。

一火の眼は宙に吸いつけられている。

いま――。

鷲はふもとの多摩川へ、水でも飲みに降りるように、ななめにさがりかけたところだった。

だが、翼をかえすと、しゅんかんに、また、目前に近よってくる。

おそるべきその羽風! ただ、目にながめたところでは、それはいかにもゆるやかで、泉をおよぐ魚のかげみたいに、あおい太虚をしずかに舞いめぐっているとしか見えないのだが、サア――ッと、頭上にきたかと思うと、あなたこなたの鯨幕は一せい風をはらみ、地上の紅葉は逆しまに吹きあげられて、さんさんと黒く、さんさんと紅く、卍をえがき、旋風となって狂う。