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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

七

轟々と空に風の鳴る夜、シトシトと肌さむい小雨が杉山に降りてくる朝、だれもがきっとかれの身を考えた。

「ああ、どうしているだろう、忍剣は」――と。

だが、いくらどうあんじたところで、ここ二十一日間は、そのようすを見ることもできない。また、かれをすくう方法もぜったいにない。

忍剣はいま、神刑に梟けられているのだ。

二十一日間のおそろしい神刑。

そこは、御岳の神殿から、まだ二里半もある深山の絶顛に近いところ。

山は冠ヶ岳とよぶ。

急峻で、大樹と岩層が、天工の奇をきわめているから、岳中自然と瀑布や渓流がおおい。あるところは、右にも滝、左にも滝、そして、渓流の瀞に朽ちたおれている腐木の上を、貂や、むささびや、りすなどが、山葡萄をあらそっているのを昼でも見る。

御岳の神領であるから、斧をいれる杣もなかった。そこに、ご神刑の千年山毛欅とよぶ大木があった。

おそろしく太い山毛欅だ。幾抱えあるかわからないような老木だ。まるで、青羅紗の服でもきているように、一面に厚ぼったい苔がついていた。

どこまで高いかとあおむいてみると、四方の樹林をつきぬいて、奇怪な枝をはっている。