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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

三

長安の奇計が、ひそかに、耳から耳へ伝えられて、どッと、はやしたものだろう。あっちでもこっちでも、ドカドカと篝火をもやして、急に、徳川方の空気が陽気になりだした。

が――しかし。

そう見えたのもつかの間で、とつぜん、奉行小屋の柱が、すさまじい音をして折れたかと思うと、血か、肉か、白木の羽目板へまッ赤なものが、牡丹のように飛びちった。

「狼藉者ッ」

という声が、そこで聞えた。

一瞬のうちに、おそろしいこんらんの幕があいた。逃げる、わめく、得物をとる。そして、同志討ちが随所にはじまる。

修羅だ。たちまち、あたりは血の瓶を割ったようだ。

立ちふさがる侍や足軽を、二振り三振り鉄杖でたたき伏せて、加賀見忍剣は夜叉のように、奉行小屋の奥へおどりこんでいった。

生はんかな得物をとって、それを食い止めようとする業は、かえって、かれの鉄杖に、勢いを加えるようなものだった。そして、そのまえに立ったものは、みんな血ヘドを吐くか、手足の骨をくじいて、まんぞくに逃げきることはできなかった。

「なに、なに? なにが起ったのだ」

石見守は、はじめ、その物音を足軽部屋のいさかいかなにかと心得たものらしかったが、そこへ、