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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

二

「なにをいッてやがるンだい」

蛾次郎は不平の口をとンがらして、

「もうとッくの昔に、このとおりまえの体になっているんじゃないか。それを、いつまでこんな中へほうりこんでおいて、だしてくれないッて法があるかい。え、おじさん――どこの国へいったって、そんなばかな法はないぜ」

「そうかな、それは悪かったよ」

と、宮内は、どこまでも好人物らしく笑っている。

「おまけに、笙ばかり吹いていて、まだお午の飯も持ってきてくれやしねえ。ちぇッ、おらア腹がへってしまった」

「いまじきに持ってきてあげるから、おとなしくしておいでなさい」

宮内はこうなだめておいて、そこの扉をピンと閉めたかと思うと、こんどは、つぎから二ツ目の木連格子の錠をあけた。と、みょうなことに、この中にも蛾次郎のところと同じように、一組の夜具が敷きのべてあって、その蒲団の上にも、やはりひとりの少年がいる。

だが、これは向こうの蛾次郎のごとく不作法ではなくいかにもものしずかに、いるかいないかわからぬようにしてすわっていたが、木連格子がギーッと開いたので、顔をさし入れた菊村宮内と目を見あわせ、だまって、頭をさげた。