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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
美女天に遊ぶ
一
ガツン
とばかりその嘴が、本能的に空の木太刀をくわえ取った。
「鷲」
ぼうぜんたる錯覚をドヤしつけられたしゅんかんに、
「オオうッ」
「あれよ、あれよ、あれ! ……」
どよめき立った数万の大衆は、その時まるでホジクリだされた虫のごとく、地上にあってまッ黒に蠢動し、ただ囂々、ただ喧々、なにがなにやら、叫ぶこえ、喚くこえ、それともうもうたる黄塵の万丈。
ただ、試合にばかり気をうばわれていた人々は、それよりほんの少しまえに、御岳の西方、御前山の森から舞いあがったこの怪物のかげが、浅黄色にすみわたった空にゆるやかな弧をえがきつつあったのを万人が万人、すこしも気がつかなかったのである。
またいくども、ひろい試合場の砂地や、自分たちの顔に、その偉大な怪影が太陽をかすめるごとに、とおり魔のような影を投げていたのも、まったく知らずにいた。
地上の人間が、ただ、アレヨアレヨとあぶくのごとく沸騰して、手の舞い足の踏むところを知らずにいるのにひきかえて、いま、一ぴきの虫でもくわえたように、するどい嘴に木太刀をさらった大鷲は、ゆうゆうと茶褐色の腹毛を見せて、そこを去らんともせず、高くも舞わず、御岳の空を旋回している。