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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

二

ところが、徳川家の者たちは、それを聞くと、むしろ僥倖のように気勢をあげて、

「遠駆けの一番試合で、勝敗を決めることは当方で、望むところ、たしかに承知した。さらば、すぐそちらでもおしたくを」

と、石見守になにやらささやいて、わいわいと引き揚げていった。

かれらの目算では、この一番こそ、疑うまでもない勝味のあるものと信じているのだ。天下歩むことにかけて、たれか、早足の燕作にまさる人間があるはずはない。

そう信じているからこそ、最初にしめした、試合掟にも、相手方は騎乗でも徒歩でも勝手しだいと傲語したのだ。

この嶮峻な山路の遠駆けに、騎馬をえらべば愚かである。人間の足より難儀にきまっているのだ、そうかといって、徒歩なればおそらくわが早足の燕作をうしろにする足の持ち人はないわけになる。

――という腹が徳川がたの作戦。

(どうでるか、相手方のやつは?)

なかば、安心しているので、興味をもって待ちかまえていると、すでに、支度ができていたものか、遠駆けにえらばれた巽小文治、朱柄の槍を山県蔦之助の手にあずけて、

「どうッ、どうッ」

一頭の白馬をひいて、試合場へあらわれた。