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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

四

アア、ついに大事をひきおこした――。

ふたりの面には、うれいがみちていた。

もし、こういうことでもあってはと、一党の者が矢来のうちへ足を踏みいれることをかたくいましめていたのに――といまさらの悔いも追いつかない。

「民部、民部」

ものにさわがない伊那丸が、とつぜん、矢来をやぶって、かけだしながら、

「はやくこい、捨ててはおけまいぞ」

と、龍太郎たちのとうわくしているそばへきた。

「オオ、若君」

「忍剣の身の一大事じゃ」

「われわれのふつつか、おわびの申しあげようもございませぬ」

「そんなことは、いまさら、申すにはおよばない。なにせい、忍剣の身を」

「は、はい。……しかし、若さままでが、ここに姿をおだしになっては、どんな禍いがふりかかるかも知れませぬから、どうか、民部どのは若君のお供をして、ここを、お立退きくださいまし、あとの儀は、われわれたちで、どうなりと処置してまいります」

一同が、おそるおそるいうことばへ、伊那丸は、強くかぶりをふって、

「かれの安危がわからぬうちに、自分ばかり退くことはできない。オオ!」

伊那丸が、オオといった声につれて、かなたに、ワーッという鬨の声がどよめいた。