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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
二
「おう、そういえば、天をつくような鬨の声」
「伊那丸は、たしかに、命をすてて、かかってきた……」
まっ暗な、空の上での話し声だ。
そこは、人穴城の望楼であった。つくねんと、高きところの闇に立っているのは、呂宋兵衛と可児才蔵である。
呂宋兵衛は、いましがた、軍師昌仙と物頭の轟又八が、すべての手くばりをしたようすなので、ゆうゆう、安心しきっているていだった。
が、可児才蔵はかんがえた。
「待てよ、こいつは見くびったものじゃない……」と。
そして日没から、伊那丸の陣地を見わたしていると、小勢ながら、守ること林のごとく、攻むること疾風のようだ。
かれは、心のうちで、ひそかに舌をまいた。
「いま、天下の者は豊臣、徳川、北条、柴田のともがらあるを知って、武田菱の旗じるしを、とうの昔にわすれているが――いやじぶんもそうだったが――こいつは大きな見当ちがい、あの麒麟児が、一朝の風雲に乗じて、つばさを得ようものなら、それこそ信玄の再来だろう。天下はどうなるかわからない、下手をすると、主人の秀吉公のご未来に、おそろしいつまずきを、きたそうものでもない――これは、ぐずぐずしている場合ではない。