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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
「そうだ、あの親船が返ってくれば、もう最期の運命、逃げるなら、いまのうちだ」
きッと、心をけっして、頭をもたげてみると、もう夜あけに近いころとみえて、寝ずの番も頬杖をついていねむっている。
「む!」はね起きるよりはやく、ばらばらと、昼みておいた小船のところへ走りだした。ところがきてみると、船は毎夜、かれらの用心で、十間も陸の上へ、引きあげてあった。
「えい、これしきのもの」
伊那丸は、金剛力をしぼって、波のほうへ、綱をひいてみたが、荒磯のゴロタ石がつかえて、とてもうごきそうもない。――ああこんな時に、忍剣ほどの力がじぶんに半分あればと、益ないくり言もかれの胸にはうかんだであろう。
「野郎ッ、なにをする!」
われを忘れて、船をおしている伊那丸のうしろから、松の木のような腕が、グッと、喉輪をしめあげた。
「見つかったか」伊那丸は歯がみをした。
「こいつ。逃げる気だな」
喉に閂をかけられたまま、伊那丸はタタタタタと五、六歩あとへ引きもどされた。
もうこれまでと、脇差の柄に手をやって、やッと、身をねじりながら切ッ先をとばした。
「あッ――き、斬りやがったなッ」
とたん――目をさましてきた四、五人の手下たちも、それッと、櫂や太刀をふるって、わめきつ、さけびつ撃ちこんできたが、伊那丸も捨身だった。