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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

日本の歴史にも、中華史上にも少ないくらいな、武士の面よごしが、武田滅亡のさいに、二人あった。一人はこの梅雪、一人は小山田信茂である。

織徳連合軍におわれた勝頼主従が、その臣、小山田信茂の岩殿山をたよって落ちたとき、信茂は、柵をかまえて入城をこばみ、勝頼一門が、天目山の討死を見殺しにした。そして、それを軍功顔に、織田の軍門へ降っていった。

信長の子、織田城之助は、小山田を見るよりその不忠不人情を罵倒して、褒美はこれぞと、陣刀一閃のもとに首を討ちおとした。――そういう例もある。

ましてや、梅雪入道は、武田家譜代の臣であるのみならず、勝頼とは従弟の縁さえある。その破廉恥は小山田以上といわねばならぬ。

――けれど家康は、城之助とちがって、何者をも利用することを忘れない大将であった。

「梅雪、伊那丸を捕えたともうすが、それだけか」

「は? それだけとおおせられますると」

「たわけた入道よな。武田家の護り神とも崇めておった御旗楯無の宝物は、たしかに、伊那丸がかくしているはずじゃ。その儀をもうすのにわからぬか」

「はッ、いかさま。それまでには気がつきませんでした。さっそく、糺明いたしてみます」