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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
間もなく、高尾の奥院からくだってきた加賀見忍剣は、神馬小舎から一頭の馬をひきだし、鉄の錫杖をななめに背にむすびつけて、法衣の袖も高からげに手綱をとり、夜路山路のきらいなく、南へ南へと駒をかけとばした。
ほのぼの明けた次の朝、まだ野も山も森も見えぬ霧のなかから、
「オーイ、オーイ」
と忍剣の駒を追いかけてくる者がある。しかも、あとからくる者も騎馬と見えて、パパパパパとひびく蹄の音、はて何者かしらと、忍剣が馬首をめぐらせて待ちうけているとたちまち、目の前へあらわれてきた者は、黒鹿毛にまたがった白衣の男と朱柄の槍を小わきにかいこんだりりしい若者。
「もしやそれへおいでになるのは、加賀見忍剣どのではござらぬか」
「や! そういわれる其許たちは」
「おお、いつか裾野の文殊閣で、たがいに心のうちを知らず、伊那丸君をうばいあった木隠龍太郎」
「またわたくしは、巽小文治ともうす者」
「おお、ではおのおのがたも、ひとしく伊那丸さまのおんために力をおあわせくださる勇士たちでしたか」
「いうまでもないこと。忍剣どののおはなしは、くわしくのちにうけたまわった。じつは我々両名の者は、小太郎山に砦をきずく用意にかかっておりましたが、はからずも主君伊那丸さまが、穴山梅雪の手にかこまれて、きょう裾野へさしかかるゆえ、出会せよという小幡民部どのから