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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「お、いかにも龍太郎どのが見えぬ」

一同は入りみだれて、にわかにあたりをたずねだした。すると、咲耶子は耳ざとく駒の蹄を聞きつけて、

「みなさまみなさま。あなたからくるおかたこそ龍太郎さまにそういござりませぬ。オオ、なにやら鞍わきにひッつるして、みるみるうちにこれへまいります」

「や! ひッさげたるは、たしかに人」

「穴山梅雪?」

「オオ、梅雪をつるしてきた」

「龍太郎どの手柄じゃ、でかしたり、さすがは木隠」

口々にさけびながらかれのすがたを迎えさわぐなかにも、忍剣は、ほとんど児童のように狂喜して、あおぐように手をふりながらおどりあがっている――と見るまに、それにもどってきた龍太郎は、どんと一同のなかへ梅雪をほうりやって、手綱さばきもあざやかに鞍の上から飛びおりた。

「それッ」

待ちかまえていた一同の腕は、期せずして、梅雪のからだにのびる。いまはいやも応もあらばこそ、みにくい姿をズルズルと伊那丸のまえへ引きだされてきた。

民部は、その襟がみをつかんで、

「入道ッ、面をあげろ」と、いった。

「むウ……ム、残念だッ」

穴山梅雪は眉間を一太刀割られているうえに、ここまでのあいだに、いくどとなく投げられたり鞍壺にひッつるされたりしてきたので、この世の者とも見えぬ顔色になっていた。