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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「おかしいな、きのうかえってから、この松の木の根ッこへあんな太い縄でしばっておいたのに、どこへとんでッちゃったのだろう」

がっかりして、しばらくあっちこっちをうろうろした竹童は、とうとう目から大粒の涙をポロリポロリとこぼしながら、あかつきの空にむかって声いッぱい!

「クロクロクロクロ。クロクロクロクロクロ」

それでも影を見せてこないので、かれはグンニャリとなり、天狗の腰掛松へよりかかってしまったが、ふとこのあいだ居士が扇子をなげて鷲を呼びよせた幻術をおもいだし、

「よし、おいらもあの術をまねしてみよう」

竹童はもう目の色かえて一心である。呪文はわからないが、腰の棒切れをぬき、一念こめて、エエイッと気合を入れて虚空へ投げる。

棒はツツツと空へ直線をえがいてあがった。

「やア、奇妙奇妙」竹童は嬉しさのあまり、手をたたき、踊りをおどって狂喜した。

と見る、谷をへだてたあなたから、とんでくるのはクロではないか、間の谷を、わずか二つ三つの羽ばたきでさっとくるなり、投げあげられた棒切れを、パクリとくわえて、かれのそばまで降りてきた。竹童が有頂天となったのもむりではない。