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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

それは伊那丸をまン中にかためてかえる、さっきの野武士だった。

「や、どこかで笛の音がするぜ……」

そういったものがあるので、一同ぴったと足なみをとめて耳をすました。なるほど、寥々と、そよぐ風のとぎれに、笛の冴えた音がながれてきた。

「ああ、わかった。咲耶子さまが、また遊びにでているにちがいない」

「そうかしら? だがあの音いろは、男のようじゃないか。どんなやつが忍んでいるともかぎらないからゆだんをするなよ」

とたがいにいましめあって、ふたたび道をいそぎだすと、あなたの草むらから、月毛の野馬にのったさげ髪の美少女が、ゆらりと気高いすがたをあらわした。

一同はそれをみると、

「おう、やっぱり咲耶子さまでございましたか」

と荒くれ武士ににげなく、花のような美少女のまえには、腰をおって、ていねいにあたまをさげる。

「じゃ、おまえたちにも、わたしが吹いていた笛の音が聞えたかえ?」

と駒をとめた咲耶子は、美しいほほえみをなげて見おろしたが、ふと、伊那丸のすがたを目にとめて、三日月なりの眉をちらりとひそめながら、

「まあ、そのおさない人を、ぎょうさんそうにからめてどうするつもりです。