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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

すると、かれのすがたを見かけた者であろうか、

「おおうい。おおうい木隠どの――」

と呼びかけてくる者がある。駒をとめてふとふりかえると、本栖湖のほうから槍組二隊をひきつれてそこへきた巽小文治が、せんとうに朱柄の槍をかついで立ち、

「おそろしい勢いで、どこへおいでなさるのじゃ」

とふしぎそうにかれを見あげた。

「おお小文治どのか、拙者はにわかに大役をおびて、これから小太郎山へ立ちかえるところだ」

「ふーむ、ではいよいよ人穴攻めは断念でござるか」

「どうしてどうして。ほんとうの合戦はこれから四日目だ。なにしろいそぎの出先、ごめん――」

「おお待ってくれ。いったいなんの用で小太郎山へお帰り召さるのじゃ」

と小文治がききかえすまに、駿馬項羽のかげは木隠をのせて、疾風のごとく遠ざかってしまった。

難攻不落の人穴攻めは、こうしてあと四日ののちを待つことになった。しかし、伊那丸や、忍剣や民部などの七将星のほかに、果心居士の秘命をうけている竹童は、そもそもこの大事なときを、どこでなにをまごまごしているのだろう。

いくらのんきな竹童でも、まさか、お師匠さまの叱言をわすれて、裾野の野うさぎなんかと、すすきのなかでグウグウ昼寝もしていまいが、もういいかげんに、なにかやりだしてもよいじぶん。