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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「市松、そこが昌仙のぬからぬところじゃ。われからことに援兵をださせて、北条、徳川などの領地をさわがせ、その機に乗じておのれの野心をとげんとする。――秀吉にそんな暇はない、乳くさい伊那丸ごとき者にほろぼされる者なら滅んでしまえ」

「では、だれか一、二名をつかわして、呂宋兵衛のようす、また、武田伊那丸の形勢などを、さぐらせて見てはいかがでござりましょうか」

「む、それはよいな。――だが、待てよ、家康の領内をこえていかにゃならぬ。腹心の者はみな顔を知られているし、そうかともうして、凡々な小者ではなんの役にも立つまいのう」

「それには、屈強な新参者がひとりござります」

「それやだれだ」

「可児才蔵という豪傑でござる。わたくしじまんの家来、ちかごろのほりだし者と、ひそかに鼻を高くしておるほどの者でござりまする」

「む、山崎の合戦このかた、そちの幕下となった評判の才蔵か、おお、あれならよろしかろう」

正則は、秀吉のまえをさがって、やがて、この旨を可児才蔵にふくませた。

才蔵は新参者の身にすぎた光栄と、いさんでその夜、こっそりと鳥刺し稼業の男に変装した。そしてもち竿一本肩にかけ安土の城をあかつきに抜けて、富岳の国へ道をいそぐ――