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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「なにがありがてえんだ、おめえに教えてやったわけじゃあない」といった。

竹童はじぶんより三歳か四歳上らしい蛾次郎を見上げて、へんなやつだとおもった。

「そのことじゃないよ、さっきおいらが悪いやつに、あやうく殺されそうになったところを、石を投げて逃がしてくれたから、その礼をいったのさ」

「あんなことはお茶の子だ、こう見えてもおれは石投げ蛾次郎といわれるくらい、礫を打つのは名人なんだぜ」

と、ボロ鞘の刀をひねくッて、竹童に見せびらかした。

「蛾次郎さんの家はどこだい?」

「おれか、おれは裾野の折角村だ、だがいまあの村には、桑畑の蚕婆と、おれの親方だけしか住んでいないから人無村というほうがほんとうだ」

「親方っていう人は、あの村でなにをしているんだい」

「知らねえのかおめえは、おれの親方は、鼻かけ卜斎っていう有名な鏃鍛冶だよ。おれの親方の鍛った矢の根は、南蛮鉄でも射抜いてしまうってんで、ほうぼうの大名から何万ていう仕事がきているんだ。おれはそこの秘蔵弟子だ」

「偉いなあ――」竹童はわざと仰山に感心して、

「じゃ、蛾次郎さんとこには、松明なんかくさるほどあるだろうな」

「あるとも、あんなものなら薪にするほどあらあ」