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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
鼻かけ卜斎と泣き虫蛾次郎
一
鼻かけ卜斎と泣き虫蛾次郎
一
さすが伊賀衆の三羽烏、菊池半助も、可児才蔵にみやぶられて、錆槍の穂先を膝にうけ、そのうえ、投げ縄にかかって五体の自由を奪われては、どうすることもできない。
「ざまをみさらせ! 命知らずが」
蚕婆が毒づきながら、縄のまま半助をひきずってきて、家の前の柿の木へグルグル巻きにしばってしまった。
「夜明けまでに、手間いらずの法で殺してやる。うぬばかりでなく、この村へ隠密にはいる者はみんなこうだ」
蚕婆は、やがて枯れ木を集めてきて、半助の身辺に積みあげ、端のほうから火をつけてメラメラと燃えあがったのを見ると、そのまま家へはいって寝てしまった。
焔がたっても、はじめのうちは覆面や衣類がぬれていたので、しばらくさまでは思わなかったが、やがて衣類がかわき、枯れ木の火焔が、パチパチと夜風にあおり立てられてくるにつれて、菊池半助は焦熱地獄の苦しみ。
「ア熱ッ、ア熱ッ、アアアアア」
おもわず悲鳴をあげて、必死に縄を切ろうともだえていた。――すると、その火の手を見て、いっさんにかけてきたのは、鏃鍛冶卜斎の弟子蛾次郎であった。
「おうそこへまいったもの、はやく拙者の脇差をぬいてこの縄を切ってくれ、早く、早く!」