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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

蛾次郎がおどおどしながら、細工場のとなりの雨戸をあけて、ひろい土間へはいると、手燭をもって奥からつかつかとでてきたのは、主人の卜斎であろう。陣羽織のような革の袖なしに、鮫柄の小刀を一本さし、年は四十がらみ、両眼するどく、おまけに、仕事場で火傷でもしたけがか、片鼻が、そげたように欠けている。

人呼んで、鼻かけ卜斎と綽名している名人の鏃師。なにさま、ひとくせありそうな人物である。

「蛾次公、昼間からどこをうろつきまわっているのだ。このバカ野郎め!」

卜斎は、つれてきた半助などには目もくれず、頭からこの怠け者の抜け作などとどなりつけて、さんざん油をしぼったあげく、

「それに、あとで聞けば、てめえは、夕方、物置小屋から二、三十本の松明をぬすみだしていったそうだが、いったい、そんな物をどこへ持ちだして、なんのために使ったのだ。うそをいうとこれだぞ!」

いきなり弓の折れを持って、羽目板をピシリッとうった。その音のはげしいこと、蛾次郎のふるえあがったのはむろん、菊池半助さえ度胆を抜かれた。

卜斎はその時はじめて、半助のほうへ気をかねて、

「まあよいわ、お客人がいるから、てめえの詮議はあとにしよう。