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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
「では、何者にたのまれて、松明を盗みだした。さ、ぬかせ」
「白旗の森にいる、竹童というわたしより五歳ばかり下の童にたのまれたんです。その者にやりました」
「あきれかえったバカ者だ。じぶんより年下の餓鬼に、手先に使われるとは情けないやつ、しかし、てめえもなにかもらったろう。ただで松明をやるはずがない」
「いいえ、なんにももらいなんかしやしません」
「まだいいぬけをしやがるか!」
またピシリッと弓の折れがうなる、蛾次郎がヒイヒイと泣く、すぐその上にいる菊池半助は、これではとても今夜は寝られないと思った。
それに気をいらいらさせられたか、かれは寝床からはいだして、ふたたび梯子口からコマねずみのようにそッと顔をだした。そのとき、半助ははじめて、卜斎の姿容を、よく見ることができて、思わず、
「あッ」と、すべりでそうな声をかみころした。
「どこかで見たと思ったはず――あれは、越前北ノ庄の主、柴田権六勝家の腹心だ――おお、鏃師の鼻かけ卜斎とは、よくも巧みに化けたりな、まことは、鬼柴田の爪といわれた上部八風斎という軍師築城の大家。いつも柴田権六が、攻略の軍をだすときに、そのまえから敵の領土へ住みこんで、砦のかまえ、水利、地の理、残るくまなくさぐって、一挙に掌握するという、おそろしい人物だ。