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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

これからこの野馬にのって、明方までに富士川の下までお送りしてあげますから、あれから駿府へでて、いずこへなり、身をおかくしなさいまし、ここに関所札もありますから……」

と、黒装束のさしだした手形をみて、伊那丸はいよいよふしぎにたえられない。

「そして、そなたはいったいたれびとでござりますぞ」

「だれであろうと、そんなことはいいではありませんか。さ、早く、これへ」

と白駒の手綱をひきだしたとき、はじめて月に照らされた覆面のまなざしを見た伊那丸は、思わずおおきなこえで、

「や! そなたはさっきの女子、咲耶子というのではないか」

「おわかりになりましたか……」涼しい眸にちらと笑みを見せて、それへ両手をつきながら、

「おゆるしくださいませ、父の無礼は、どうぞわたしにかえてごかんべんあそばしませ……」と、わびた。

「では、そなたは小角の娘でしたか」

「そうです、父のしかたはまちがっております。そのおわびに鍵をそッと持ちだしておたすけもうしたのです。伊那丸さま、あなたのおうわさは私も前から聞いておりました、どうぞお身を大切にして、かがやかしい生涯をおつくりくださいまし」

「忘れませぬ……」