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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

――あがったところはまッ暗であった。

だれかが、カチカチ……と火打石を磨っている。部下は二十人ばかり、ここへ置いていったのに、イヤにあたりが静かである。

カチッ、カチッ、カチッ……火打石はなかなかにつかない……

「たわけ者め!」

忍剣は、部下の不用意を叱りつけた。じぶんたちがいない間に、あるいは、軍律を破って、夜半の眠りをむさぼっていたのではないかとさえうたぐった。

「なぜ、かがり火を焚いておらぬ、この暗さで、いざことある場合になんといたす。不埒者めが、はやく灯をつけい!」

「はい、ただいますぐに明るくいたします」

と答える者があったが、すこし声音がへんである。調子がおかしい。

小文治は、部下の者のなかにこんなしわがれた声はなかったはずと思って、きッとなりながら、

「何者だッ、そこにいるのは!」

と、声あらく、どなりつけてみた。

にもかかわらず、相手は平気で、まだカチカチと闇のなかで、火打石を磨っている。

「名を申さんと突きころすぞッ、敵か、味方か!」

ピラリッ――朱柄の槍の穂先がうごいて、闇のなかにねらいすまされた。と、その槍先から、ポーッとうす明るい灯がともった。