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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

と勇みたって近づいていくと、はたして、くずれかけた文殊閣の石段のうえに、白衣の六部が、月でもながめているのか、ゆうちょうな顔をして腰かけている。

「こりゃ六部、あれほど呼んだのになぜ待たないのだ」

忍剣はこんどこそ逃がさぬぞという気がまえで、その前につッ立った。

「なにかご用でござるか」

と、かれはそらうそぶいていった。

「おおさ、問うところがあればこそ呼んだのだ。年ごろ十四、五に渡らせられる若君を見失ったのだ。知っていたら教えてくれ」

「知らない、ほかで聞け」

六部の答えは、まるで忍剣を愚弄している。

「だまれッ、この裾野の夜ふけに、問いたずねる人間がいるか。そういう汝の口ぶりがあやしい、正直にもうさぬと、これだぞッ」

ぬッと、鉄杖を鼻さきへ突きつけると、六部はかるくその先をつかんで、腰の下へしいてしまった。

「これッ、なんとするのだ」

忍剣は、渾力をしぼって、それを引きぬこうとこころみたが、ぬけるどころか、大山にのしかかられたごとく一寸のゆるぎもしない。しかも、六部はへいきな顔で、両膝にほおづえをついて笑っている。

「むッ……」

と忍剣は、総身の力をふりしぼった。