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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

ウム、くせになるから、いちばん胆ッ玉のでんぐり返るほど、おどかしてやれ」

じぶんも蛾次郎あいてに、かけごとをしていたことなどは棚へあげて、不平づらをとンがらかした燕作、いきなり庭先のやみへバラッとおどり立ち、声と両手をめちゃくちゃにふりあげて、

「一大事、一大事! 酒宴どころじゃない、一大事がおこったぞ」

取次ぎもなく、ふいにどなられたので、呂宋兵衛は、杯をおとして顔色をかえた。かれのみか、丹羽昌仙、蚕婆、穴山の残党足助、佐分利の二名、そのほかなみいる野武士たちまで、みな総立ちとなり、あさましや、歓楽の席は、ただ一声で乱脈となった。

「おお、そちは番小屋の燕作、さてはなんぞ、伊那丸がたの間諜でも、立ちまわってきたと申すか」

「あ、昌仙さまでございましたか、間諜どころか、武田伊那丸じしんが、一千あまりの軍勢を狩りたて、この法師野へおそってくるようすです」

「ウーム、さすがは伊那丸、もうこの隠れ里をさぐりつけてまいったか。よもやまだ四、五日は大丈夫と、たかをくくっていたのが、この昌仙のあやまり、ああ、こりゃどうしたものか……」

丹羽昌仙は、ためいきついて、つぶやいたが、急に、ヒラリと庭さきへでて、じッと、十方の天界をみつめだした。