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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
「ふしぎや、いっこう行方が知れもうさぬ。どうやらすでに風をくらって、逃げ失せたのではないかと思われる」
「といって、この家の四ほうは、二重三重に取りかこんであるから、かれらのしのびだすすきもないが」
「どこかに間道らしい穴口でもないかしら」
「それもわしが手をわけて尋ねさせたが、ここに一つの空井戸があったばかり」
「なに空井戸?」
と龍太郎がとび降りてきて、
「ウム、こりゃあやしい、どこかへ通じる間道にそういない、なかへはいってあらためて見よう」
「いや、念のために、ただいまわしが石埋めにしてしまった」
と、忍剣はしたり顔だが、龍太郎はじだんだふんで口惜しがった。呂宋兵衛や敵の主なるものが、この口から逃走したとすれば、この空井戸をふさいで、どこからかれらを追跡するか、どこへ兵を廻しておくか、まったくこれでは、みずから手がかりの道を遮断してしまったことに帰結する――と憤慨した。その理の当然に、忍剣もすっかり後悔して、しばらく黙しあっていた。
すると、はるか北方の森にあたって、とぎれとぎれな笛の音が高鳴った。
――おお、それは、幻の陣をしいて鳴りをしずめていた咲耶子が、かねて手はずをあわせてある合図の笛。