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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

多宝塔

一

多宝塔

一

山県蔦之助も、さっきの笛合図と、小文治の手柄名のりをきいて、弓組のなかからいっさんにそこへ駈けつけてきた。

でかした小文治――と、党友の功をよろこびつつ、忍剣も龍太郎も、声のするほうへとんでいってみると、いましも小文治は、黒衣の大男を組みふせて、あたりの藤蔓でギリギリとしばりあげているところだ。

「おお、みごとやったな」

蔦之助と龍太郎があおぐようにほめそやす。忍剣はちょっとざんねんがって、

「どうもきょうは、よく小文治どのに先陣をしてやられる日だわい……」

と、うれしいなかにまだ腕をさすっている。

すると、白樺のこずえの上にあって、始終をながめていた咲耶子が、にわかに優しい声をはって、

「あれあれ、蔦之助さま、忍剣さま! 上の手うすに乗じて、和田呂宋兵衛が逃げのぼりましたぞ、はやくお手配なされませ!」

「な、なんといわるる!」

四人は、愕然として空を見あげた。

「咲耶子どの、その呂宋兵衛は、ただいま小文治どのがこれにて生けどりました。それはなにかの人ちがいであろう」

「いえいえ、たしかにあれへ登ってゆくのこそ、呂宋兵衛にそういありませぬ。オオ、施無畏寺の境内へかくれようとしてようすをうかがっておりまする、もう、わたしもこうしてはおられませぬ」