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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
紺地無紋の陣羽織をつけ、ひだりの籠手に采配をもち、銀作りの太刀をうしろへ長くそらしていた。
兵は味方より計るというが、あまり意外なことなので龍太郎は、呂宋兵衛の縄尻をとりながら、民部に向かってたずねてみた。
「こよいは法師野に平陣をしかれて、あれにおいであることとばかり思っておりましたに、いつのまに、この塔のうちへお越しなされてでござります」
「おん大将の陣は、ありと見ゆるところになく、なしと見ゆるところにあるのが常、べつにふしぎはござりませぬ」
と、民部はことばすくなく答えたのみ。
「いつもながら軍師の妙策、敬服のほかはござりませぬ。ところでこやつはいかがいたしましょうか」
「わが君の御意は!」
「そうじゃの……」
伊那丸はじッと考えて、
「厳重にひっくくって、ひとまず、この三重の塔のいただきへからげつけておくのはどうじゃ」
「ともすると、幻術をもって人をまどわす妖賊、なにさま、陣ぞろいのまもありますゆえ、それが上策かも知れませぬ」
「ウム、軍馬をそろえて、小太郎山の砦へひきあげたうえは、御旗楯無の宝物のありかも、とくと糺してみねばならぬゆえ、そのあとで咲耶子に討たせてやるもおそくはあるまい」