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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

それは、人穴の残党を一挙に蹴散らして、主将呂宋兵衛を生けどり、多宝塔の三重へ封じこめた伊那丸の軍兵が、あかつきの陣ぞろいに富岳の紅雲をのぞんで、三軍おもわず声をあわせてあげた凱歌であろう。

とおい動揺みが、失神の耳にも通じたものか、そのとき竹童は、ピクリと鳩尾をうごかして、すこし顔を横にふった。その唇へ、白蛇は銀の鎌首をむけて、緋撫子のような舌をペロリと吐く。

すると、幾十の麗人が、笙をあわせて吹くごとき竹林の風――ザザザザザッ……とそよぎ渡ったかと思うと、竹童ははッきりと意識を呼びかえされて、パッチリこの世の目をひらいた。

――気がつくと、じぶんはだれかに抱かれている。

白衣白髯の老道士、片手を彼の首にまき、片手を胸にまわして、わが膝に抱きながら、なにやら、かんばしい仙丹を噛みつぶして、竹童の口へ唇うつしにのませてくれる。

「こりゃ、竹童、竹童……」

「あ?」

「気がついたか」

「オオ、あなたはお師匠さま!」

「ウム」

とうなずいたとたんに、老道士は竹童を手からおろして、すばやく七、八間ばかり離れてしまった。

その人は、竹童がぎょうてんして呼んだごとく、かれの恩師果心居士であった。