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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「はッ」と弟子僧ははだしでとびおりた。鎧櫃をとって泉水の水をふくませた。武士は、気がついて快川のすがたをあおぐと、

「お! 国師さま」と、大地へ両手をついた。

「巨摩どの、さいごの便りをお待ちしていましたぞ。ご一門はどうなされた」

「はい……」左文次はハラハラと涙をこぼして、

「ざんねんながら、新府のお館はまたたくまに落城です。火の手をうしろに、主君の勝頼公をはじめ、御台さま、太郎君さま、一門のこり少なの人数をひきいて、天目山のふもとまで落ちていきましたが、目にあまる織田徳川の両軍におしつつまれ、みな、はなばなしく討死あそばすやら、さ、刺しちがえてご最期あるやら……」

と左文次のこえは涙にかすれる。

「おお、殿もご夫人もな……」

「まだおん年も十六の太郎信勝さままで、一きわすぐれた目ざましいお討死でござりました」

「時とはいいながら、信玄公のみ代まで、敵に一歩も領土をふませなかったこの甲斐の国もほろびたか……」

と快川は、しばらく暗然としていたが、

「して、勝頼公の最期のおことばは?」

「これに持ちました武田家の宝物、御旗楯無(旗と鎧)の二品を、さきごろからこのお寺のうちへおかくまいくだされてある、伊那丸さまへわたせよとのおおせにござりました」