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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
紅帆呉服船
一
なにやら叫んだかと思うと、片手をブンとふりまわした。
と――またこそ、かれの幻術か、ふいに、さッと落ちてきた一陣の風鳴り。
すると明方の天空から、思いがけない人声がきこえた。
「いけねえいけねえ、おいクロ! こんなところへおりちゃアいけねえ」
いうまもなく、ななめに翔けりきたった、まっ黒な怪物があった。
まさしく鷲! 竹童の盗まれたクロ。
乗っているのは――わめいているのは、菊池半助にドヤされて、遠江の国をすッ飛んできた、泣き虫の蛾次郎であった。
鷲は見るまに九輪をかすった。
一大事!
巽小文治はふたたび槍をとりなおして、あおむけざまに、ヤッと突きあげたが、鷲の羽風にふき倒され、さらにいっぽうの龍太郎が、九輪の根もとからはらいあげた戒刀の切ッ先も敵のからだにまでとどかなかった。
その時、それと同時に、呂宋兵衛はとんできた鷲の背なかへ乗りうつっていた――ほとんど、電光一過――目ばたきする間だ。
塔上の二勇士、塔下の三軍が、あれよと、おどろきさけんだ時には、万事休す、蛾次郎、呂宋兵衛、ふたりを乗せた大鷲の影はまっしぐらに、三国山脈の雲井はるかに消えていく。