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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

ごぞんじなら、教えていただきたい」

「伊那丸さまは、ご僧と一しょに斬りこんできた六部のひとが、おそろしい早技でどこともなく連れていってしまいました。あの六部が、善人か悪人か、わたくしにもわからないのです。それをあなたにお知らせするために夜の明けるのを待っていたのです」

「えッ、ではやっぱりあの六部にしてやられたか。して六部めは、どっちへいったか、方角だけでも、ごぞんじありませんか」

「わたくしはそのまえに、富士川をくだって、東海道から京へでる関所札をあげておきましたが、その道へ向かったかどうかわかりませぬ」

「しまった……?」

と、忍剣は吐息をもらした。と、咲耶子は、にわかに色をかえてせきだした。

「あれ、父の手下どもが、わたくしをたずねてむこうからくるようです。すこしも早くここをお立ちのきあそばしませ。わたくしは山へ帰りますが、かげながら、伊那丸さまのお行く末をいのっております」

「ではお別れといたそう。拙僧とて、安閑としておられる身ではありません」

ふたたび鉄杖を手にした忍剣は、別れをつげて、恨みおおき裾野をあとに、いずこともなく草がくれに立ち去った。

――咲耶子も、しばしのあいだは、そこに立ってうしろ姿を見おくっていた。