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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
すぐおれもここを立つとしよう」
「するととうぶんお別れだが、秀吉公へ取りいったら、おれもお船手の侍大将かなにかになれるように、うまく手蔓をしてもらいてえものだな」
「野武士だろうが海賊だろうが、人見知りをせず味方にする秀吉だから、おれが上手に売りこんで、龍巻壱岐守ぐらいにはしてやるよ。まあそれを楽しみにしているがいい」
「あ――厦門船がでやがった」
窓口から港をながめて、龍巻はにわかに立った。そしてせわしい別れをつげ、部屋からかげを消したかと思うと、やがて、海賊の巣である異人屋敷の裏手から、一艘のはしけを矢のごとく漕がせていった。
「ははあ、紅帆船は、むこうの岬のかげにかくれているんだな」
それを見つつ、呂宋兵衛も伴天連の黒服をつけ、首に十字架をかけて、ふところには短刀をのんだ。さて、すっかり身支度がおわると、バタバタ窓をしめて、かれもこの家を立ちかけたが、門口でフイと一つの忘れ物を思いだした。
「針……針……針がいたッけ……」
呪文のようにつぶやくと、クルッと踵をかえして、うす暗い石段をスルスルと地の底へ――
二
陰湿な穴蔵部屋、手さぐりで近寄ると、鉄格子の錆がザラザラ落ちた。