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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

この書状のようすでは、疾く佐和山をおとしいれ、長浜の城まで手をだしてまいったらしい。ウム、もう隠忍している場合ではない。若狭! 若狭守!」

「はッ」

「そちはすぐ天守へあがって、陣触れの貝をふけ」

「はッ」

「勝敏、勝豊! また玄蕃允! その方どもは先陣に立ってまッしぐらに、近江へむかえ、すぐにじゃぞ……」

「君! しばらく待たせられい」

「なんじゃ、毛受勝介、そちも一陣のさきがけをのぞむか」

「いや、もってのほかな――」

とニジリだした勝介、やや色をあらためて、きッと、

「さきほど、軍師の八風斎どのが、列席のおりには、秀吉退治のご出陣は、来春の雪解けと、同時に遊ばすことに決したではござりませぬか」

「ひかえろ、それはまだ信孝公の御書がつかぬまえじゃ。秀吉の独断かくまでと思わぬからじゃ」

「ご立腹はさりながら、時はいま十二月の真冬、北国街道の雪たかく、軍馬の進路、おもいもよりませぬ」

「だまれ、勝介、おりから今年は雪がすくない。このくらいな天候ならば、柳ヶ瀬越えもなんのその、一挙に、長浜を取りかえして、猿めに、一あわふかすぐらいなんのぞうさがある」

「仰せながら、ひとたび軍旅を遠くはせて、木ノ芽峠や賤ヶ岳の険路を、吹雪にとじこめられるときは、それこそ腹背の難儀、軍馬はこごえ、兵糧はつづかず、ふたたびこの北ノ庄へご凱旋はなります