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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
二
二
浜松の城下は、海道一の名将、徳川家康のいる都会である。その浜松は、ここ七日のあいだは、男山八幡の祭なので、夜ごと町は、おびただしいにぎわいであった。
「どうですな、鎧屋さん、まだ売れませんか」
その八幡の玉垣の前へならんでいた夜店の燈籠売りがとなりの者へはなしかけた。
「売れませんよ。今日で六日もだしていますがだめです」
と答えたのは、十八、九の若者で、たった一組の鎧をあき箱の上にかざり、じぶんのそばには、一本の朱柄の槍を立てかけて、ぼんやりとそこに腰かけている。
「おまえさんの燈籠のほうは、女子供が相手だから、さだめし毎日たくさんの売上げがありましたろう」
「どうしてどうして、あの鬼玄蕃というご城内の悪侍のために、今年はからきし、商いがありませんでした」
「ゆうべもわたしがかえったあとで、だれかが、あいつらに斬られたということですが、ほんとでしょうかね」
「そんなことは珍しいことじゃありませんよ。店をメチャメチャにふみつぶされたり、片輪にされたかわいそうな人が、何人あるか知れやしません。まったく弱いものは生きていられない世の中ですね」
といってる口のそばから、ワーッという声が向こうからあがって、いままで歓楽の世界そのままであったにぎやかな町の灯りが、バタバタ消えてきた。