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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

起きあがると、またふたたび、毛受勝介の大喝一声、

「おのれ、間諜!」

グンと襟がみを引ッつかまれた。が、こんどは呂宋兵衛にれいの奥の手をだすよゆうがあった。ポンとその手をはらうや否、跳びあがって広間の壁へ、守宮のようにペタリと背なかを貼りつけてしまった。

上部八風斎、すばやく見つけて、槍の素扱きをくれながらブーンと壁の下からつき上げた。――もんどり打って呂宋兵衛のからだが畳の上へおちたかと思うと、木の葉をめくるように一枚の畳がヒラリと起きて槍へかぶった。

「おおッ」

と、毛受、佐久間が飛びつくまに、かれのすがたは畳の下へもぐって消える。

「方々、方々、曲者はこの部屋でござる。千畳敷を取りまきめされい!」

毛受勝介が城中へ鳴りわたるばかりにどなった。

と――あら奇怪、畳から次の畳へ、ムクムクムクと波のごとくうごいていった。そして、向こうの端の一枚がポンとめくれる――たちまち飛びだした呂宋兵衛、脱兎のごとく大廊下から武者走りににげだした。

「幻術師! のがすなッ」

とひしめきあって、あらん限りの武者がそれへ殺到してしまった。そのようすを見すまして、はじめて、納戸襖をソロリとあけた黒装束、押入れからとびだして、呂宋兵衛からわたされた攻軍の秘図をふところにおさめ、別なほうから築山づたいで、北庄城の石垣をすべり落ちていっ