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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「よしきた! おれの足なら一足とびだ」

「そして、すぐに手配をまわすようにね」

「おッと心得た!」

いうが早いか燕作は、朱雀の原をななめにきッて、お手のものの韋駄天ばしり、どこへ駈けたか、たちまち、すがたは朧の末にかくれてしまう。

あとにのこった蚕婆は、黒い袖を頭からかぶって、釣り橋のかげにピッタリと身をひそめている。そして菊亭殿の奥のようすをジッと聞きすましているらしかったが、ひろい大殿作りの内からは、あれきり鼓の音も人声ももれてはこず、ただ花橘や梅の香に、ぬるい夜風がゆらめくのを知った。

二

駈けるほどにいくほどに、早足の燕作は、さっさつたる松風の声が、しだいに耳ちかくなるのを知った。臥龍に似たる洛外天ヶ丘のすがたは、もう目のまえにおぼろの空をおおっている。

「アア、息がきれた……」

よほどいそいだものと見えて、さすがの燕作も、そこでホッと一息やすめた。

丘はさして高くはないが、奇岩乱石の急勾配、いちめんに生いしげっている落葉松の中を、わずかに、石をたたんだ細道が稲妻形についている。

「どりゃ、もう一息――」

というと燕作は、兎のようにその道をピョイピョイと登りだした。