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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
だが、慾のふかい呂宋兵衛は、もう南蛮寺を拝領したようなつもりで、すっかりここに根を生やし、またボツボツと浪人者を山内へあつめて、あわよくば、一国一城の主をゆめみている。
だから、むろん、祭壇はあれほうだいだし、もとの教会堂には、槍や鉄砲をたくわえこみ、うわべこそ伴天連の黒布をまとっているが、心は、人穴時代からかわりのない残忍なるかれであった。
「よくいう諺に、天道さまと米の飯はつきものだというが、まッたく世のなかはしんぱいしたものじゃない。人穴城がなくなったと思えば、こんないい棲家がたちまちめっかる。わはははは、富士の裾野だの大江山だのにこもっているより、いくら増しだか知れやしねえ。しかもこんどは、羽柴秀吉から公にゆるされているのだからなおさら安心、しかし、だれもかれも、悪事をやるなら上手にやれよ、裾野とちがって都のなか、あの秀吉ににらまれると、おれもすこし困るからな」
広間には、燃えるような絨氈をしきつめてあった。そこは南蛮寺の一室。四方に大きな絵蝋燭をたて、呂宋兵衛は、中央に毛皮のしとねをしき、大あぐらをかいて、美酒をついだ琥珀のさかずきをあげながら、いかにも傲慢らしい口調でいった。